Web朱夏

Web朱夏 No.3(2011.01.27)

[ブックガイド] 

グレゴリ青山『マダムGの館 月光浴篇』

編集者G

グレゴリ青山というと、このページを読んでいるような方だと、当社刊行の『外地探偵小説集』のイラストを描いている人、もしくは雑誌『彷書月刊』で古書マンガを描いていた人といった、マニアックな媒体で活躍している作家のイメージがあるかもしれない。けれども、本当はいろいろな場で作品を発表している人。

『マダムGの館』カバー今回出た『マダムGの館 月光浴篇』は、小学館の雑誌『月刊 flowers(フラワーズ)』に掲載されたものをまとめている。実はこの雑誌は、少女マンガ誌。それだから、正直なところ心配であった。はたして、グレゴリの個性が少女マンガの枠におさまるのかと。

この本のスタイルは、マダムG(作者自身ではないと、見返しに注記あり)が助手の雨宮青年に、美とは何かを講義していくというもの。ストーリーマンガではあるけれど、エッセイマンガの要素が強い。 で、どのようなものを取り上げているのかというと、「黒蜥蜴」(乱歩原作で、映画、演劇、マンガといろいろなバリエーションがある)、「ボリウッド」(ヒンディー語映画)、「月光浴」(夢野久作、横溝正史、中井英夫といった人々の作品がずらり)、といった感じで、いつものグレちゃんで一安心した次第。他の本で触れられているネタもあるが、この本はレクチャー形式で、現代の少女たちに、クラシカルだけれど今なお蠱惑的な文化を教えるものなのだから、これでいいのだ。もちろん、今までの本に出てきていないネタもいろいろ入っていて、作者の本を何冊も読んでいる人でも楽しめる。

この原稿は「Web朱夏」に掲載されるから、そういう意味でふさわしい章をチョイスするなら、「老上海」と「老上海と女」。両方あわせて5回にわたるシリーズで、マダムGや雨宮青年たちが老上海、つまり戦前の上海にタイムスリップするというもの。魔都と呼ばれた町の猥雑さ、李香蘭といった女性たちの美しさと数奇な運命が取り上げられた好篇だ。

グレゴリ青山の個性を押さえつけるどころか、のびのびと描かせる『flowers』のおおらかさに感心するこの連載(今も続いている)と単行本。あえて難点をあげるなら、書店の通常の配置では、少女マンガコーナーに収まってしまうこと。目利きの書店員なら、気の利いたところに置いてくれるが、機械的に処理されたら、少女たちの視界にしか入らないところに鎮座しかねない。これは惜しい。というわけで、この本の紹介記事を書いた次第。筆者は少女マンガコーナーを徘徊するのに抵抗はないが、恥ずかしい方にはネット書店で注文することをおすすめする。

最後に一言。この本、装幀がとてもいい。デザイナーは、名久井直子という、ブックデザインの世界では名の知られた方。美を主題とする本にふさわしいそのたたずまいは、写真にてご確認いただきたい。

[データ]

発行元/小学館

刊行時期/2010年7月

価格/本体価格905円+税

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